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マーケティングなど、ビジネスの世界で使われることが多くなってきたペルソナ。
ですが、実際にはどう作ればいいのか?
そして、どう活用すればいいのか?
実際のところ、よくわからないという声を多く聞きます。
ですが、その意味を正しく理解した上で使えば、まさに現代のマーケティングの課題を解消する強力なツールとなるペルソナ。ここでは、そもそもペルソナとは何なのか、そして、その設定の方法、分析の方法について詳しく、わかりやすく紹介していきます。
そもそも、ペルソナとは何か?
もともとはラテン語で「persona(仮面、人格)」という意味です。英語の「person」のもとになった言葉ですね。その言葉の通り、人間性や個性を指すものと考えてよいでしょう。
人間性や個性、そしてそこから生まれる思考行動特性をマーケティングの分野で考えるとき、いわゆる「STP」つまり、「セグメンテーション(顧客の分類)」、「ターゲティング(顧客の特定)」、「ポジショニング(寺社、次製品の立ち位置)」を明らかにしていくという手法が使われます。そこから、「ペルソナ≒ターゲット」という考え方をする方もいますね。ですが、その2つは似ているようで、異なる部分も多くあります。では、ペルソナとターゲットはどのような違いがあるのでしょう?
キーワードは二つ、「細かさ(What,How)」と「深さ(Why)」です。
たとえば「男性用化粧品」のプロモーションというシチュエーションでのターゲット、「年収1000万以上の40代男性」を例にとってみましょう。これは、所得、年齢(年代)、性別でセグメントされたターゲットです。
では、このターゲットがどのぐらい「Why,What,How」を説明しているかを考えてみてください。これだけの情報では、そのターゲットがなぜ(Why)その商品を購入するのかわかりませんね。また、何を大切にし(Why)、どのような気持ちや感情、生活を送っているのか(How)もわかりません。
これら(Why,What,How)について、具体的にしたものがペルソナです。
例えば、「40代になり、営業部長(責任ある立場)を任されるようになると、人前に出たり、人と接することが多くなった。
その一方で、小学校高学年になる娘からは体臭を指摘されるようにもなってしまい自分でも気にしている。
鏡を見ると、今までになかったようなしわや、シミが目立つようになっている。
今までは男が化粧をすることについて否定的だったが、部下の行動や、TV、電車、タクシーなどでの車内広告を見るにつけ、男性でも美容ケアすることがマナーとして広がってきたと感じることが多くなった。
だが、時間がなく機会もないため、エステなどではなくセルフケアからスタートしたい」のように、その顧客の「なぜ」「なに」「どのように」を明らかにしたものといってよいでしょう。
ペルソナ設定とは、まさにこの、顧客の「なぜ」「なに」「どのように」を明確にしていく作業です。
そしてその工程の中で、自分自身を含めた人間が、どんな時にどのような感情を持ち、どのような意思決定をするのか。
その原因になることは何なのかに対する洞察(インサイト)を得ていきます。
この、観察と洞察に基づいた知見を持つことこそが、高度に細分化された現在、そして未来の市場でマーケティングを成功させるカギとなるのです。
ペルソナ設定のメリットは多くありますが、代表的なものは3つです。
1つ目のメリットは、チーム内で共通言語・共通認識を持てることです。
例えば「年収1000万の40代男性」といったとき、あなたはどんな人をイメージしますか? どこに住んでいて、どんな仕事をしていて、何が好きなのでしょう。
そして、そのイメージは、あなたの同僚や上司も同じですか?
抽象的であいまいな概念を扱う際、私たちはその「余白(決められていない部分)」を自分自身の経験や知識で埋め合わせます。
ところが、個人の経験や知識はまさに千差万別ですので、同じものを見ているつもりで全く異なるイメージをそれぞれが持っている、ということがよく起こります。
日常生活ならいざ知らず、マーケティングやブランディングではこの違いが致命的なコミュニケーションエラーにつながりますので、誰もが(ほぼ)同じようにイメージできる人物像を共有することが大切なのです。
2つ目のメリットは、顧客の「本当の悩み」に寄り添いやすくなる点です。先ほどの男性の例でいえば、「仕事のプラスにしたい」という想いだけではなく「娘に嫌われたくない」という悩みも見て取れます。
生活が豊かになり、基本的な悩み(安全や生存に関する悩み)が解決されるようになると、より高度で複雑な悩みが生まれます。
そして、そのような悩みに対するソリューションとなるプロダクトが付加価値の高いものとして評価されます。
そのようなプロダクトを生み出すためには、対象の観察と、そこから得られる洞察が必要となります。
ペルソナを用いたアプローチとは、その洞察を得るためのアプローチともいえます。
3つ目のメリットとは、つい忘れがちになる「ユーザー重視」「ユーザー視点」での開発やマーケティングが可能になる点です。現代において「ユーザー視点」や「ユーザー重視」を軽視する企業はないでしょう。ですが、そこから生み出された商品やサービスが本当にその基本にのっとっているかというと疑問符が付きますね。
では、なぜそのように「作り手目線」「作り手重視」のプロダクトが生み出されてしまうのでしょう。
その答えの一つが、先に挙げた「あいまいな点は、自分の(自社の)経験や知識で埋める」という私たちの思考行動特性にあるといえそうです。
「ユーザー重視」と言ってはみたものの、ではその「ユーザー」って何? ということがあいまいにされていると、それを自社の経験、知識、論理で埋めてしまう。
場合によっては、声の大きな決定者の一声で決まってしまう。
結果的に、ユーザーから離れて行ってしまう。
そんな経験を現場でなさっている方もいるかもしれませんね。
ここでは3つのメリットを挙げました。
もし、あなたのプロジェクトにこれらのメリットがもたらされたら、どのような変化が生まれますか?
では、ここまで挙げたようなメリットを最大限享受できるような、ペルソナ設定のやり方とはどのようなものでしょうか。
方法を具体的に説明していきます。
ペルソナ設定のコツは「文化人類学者、または探偵のような姿勢で臨むこと」です。
それはどういうことなのか?
両者に共通するのは、徹底した対象の観察です。
そのためにも、まずは観察すべき領域を設定しましょう。領域の設定のためには、先に挙げた「セグメンテーション」「ターゲッティング」が有効です。
現場でよく「アタリをつける」といわれる段階です。
観察すべき領域を設定したら、その領域に含まれる対象を徹底的に観察します。そのために大切なのが、統計的に観察することと、個別的に観察することです。
先ほどの男性の例でいうと、「小学校高学年の子供がいる」は、結婚と出産の年齢。「臭いを指摘される」は、加齢臭の発生、男女の嗅覚敏感性の差など、統計的科学的に得られる情報によります。
この統計的科学的なアプローチによって、「みんな大体そうなる」という一般性を担保することができます。
自社が蓄積したアンケートなどの顧客調査情報も、この統計的科学的アプローチに属します。
ですが、統計的な情報はそのままでは使いにくい情報です。
例えば「人口動態統計によれば2017年の男性の初婚年齢は31.1歳、女性は29.4歳であり、同年の第一子出産時の母の年齢の平均は30.7歳である」という情報だけでは「へー、そうだったのか」で終わってしまうかもしれません。
そこに「だからどうなる?」という問いを設定していくことが大切です。
「平均初婚年齢と第一子出産時の母の年齢は大体30歳ぐらいだから、40代で第一子は10~20歳ぐらいの年齢になる」と、「だからどうなる?」を考えると、統計的科学的な情報がペルソナ設定に生きてきます。
それと同時に、デプスインタビューなど、個人に対しつながりのある情報を聞き出す、個別的な観察を行っていきます。
これは、先ほどの統計的科学的な情報に広がりや流れを与えます。
「いやあ、小さい頃は「パパ」「パパ」ってなついてた娘が、思春期になって「お父さんマジで臭いんだけど」と言ってきたときは本当にショックでしたね…」というような個人の生活や歴史に紐づくようなエピソード(つながりのある情報)と、先ほどの「40代の時子どもは10~20歳」という情報が結び付くと、40代男性の生活や悩みにより近づくことができますね。
このような情報を、あらかじめ用意した項目に落とし込んでいきます。項目の内容と数は目的によるのですが、基本的には人物像に関わる情報(氏名、性別、年齢、身体的特徴、職業、居住地、居住形態、趣味嗜好など)、行動に関わる情報(生活の仕方、働き方、休日の過ごし方、対人関係など)、信念に関わる情報(学歴や成育歴、価値観やものの考え方、将来のビジョンなど)というように、だれが、どんな気持ちで何をしているのかがわかるように決めていきます。そのうえで、ペルソナ設定をしているあなた自身が商品開発などをする分野に関連する情報をリッチにしていくと良いでしょう。
いかがでしょうか。ペルソナとはどのようなものか、どのように設定するのかイメージしていただけましたか?
実際にペルソナを設定するときには、いくつかの注意点があります。実務上の悩みとともに確認していきましょう。
この悩みが、ペルソナを設定する際、最も多くの方が感じる悩みでしょう。様々な場所で紹介される「ペルソナの設定の仕方」では、ほとんどの場合「必要十分なぐらい細かくしてください」と書かれます。そして、その必要十分がどのぐらいかわからないから悩み、最初に細かく作ろうとし過ぎて何が何だか分からなくなってしまうということが多々あります。
そのような場合は、まずあなた自身が生み出そうとしている商品やサービスを、ペルソナが使っているシーンを写真のようにイメージしてみましょう。
いつ、どこで、どのように使っているのでしょう?
次に、「なぜ?」と問うてみます。
そのペルソナは、商品やサービスをなぜ購入した(できた)のでしょう?
「なぜ?」には、様々な答えが考えられますね。
ここで可能な限り様々な角度から「なぜなら」を考えておくと、その後の作業がスムーズになります。
このように、一人の、一つの瞬間にフォーカスし、徐々にそれを広げていくようにすると、ペルソナ設定のスタートがしやすくなります。
そして、この過程で思いついた情報を、項目に当てはめていきます。
大切なことは、「項目を埋めるために考える」のではなく、「その人物の行動を追っていくと項目が埋まる」という点です。
私たちは、とかくテンプレートやマニュアル通りに作業を進めたくなりますが、項目をただ埋めようとするとそれ自体が目的となり、行き詰まりやすくなります。
ただ、項目があることによって視野が広がり、ヌケモレなく考えられるというメリットがありますので、まずはミクロな視点で考え、項目というマクロな視点から見直して… という工程を繰り返すと良いでしょう。
チームでも個人でも、かなりの時間と労力、費用をかけてペルソナを設定したにもかかわらず、うまく使えない。そんな悩みも多く聞かれます。
この悩みの原因は大きく2つ。
1つ目は、「完璧なペルソナを作らなければいけない」という思い込みが原因となるものです。ペルソナ設定のメリットでもご紹介したように、ペルソナはイメージを共有し、共通言語で語れるようになることが大きな利点です。
そして、イメージの共有のためにはすりあわせが必須です。ペルソナは一回で完璧なものが作れるわけではないこと、不足や不備があることは当然、ということを前提にして、使いながらどんどんブラッシュアップしていくことが大切です。
また、社会や技術は日々変化します。その変化に対応していくためにも、ペルソナは日々アップデートしていきましょう。
そのためにも、可能な限り様々な場面でペルソナを話題に出し、使っていくことが大切です。
ペルソナを作成する際に、外見のイメージ写真を付けたり、具体的な個人名を設定したり、それらをシートにまとめたりすることは、使用頻度を高めるうえで有効です。
「先日設定したペルソナについてなのですが…」よりも、「ペルソナの佐藤ソナ男についてなのですが…」のほうが、「ああ、ソナ男ね」と話しやすくなりますよね。
2つ目は、あまりにご都合主義的にペルソナを作ってしまったため、あまり有益な参考にならない、というものです。
調査やデータ、またその解釈の中で自社のプロダクトに都合のいい情報ばかりを集めてしまうと、理想的すぎるペルソナが作り上げられてしまうことがあります。
このような問題が発生することを防ぐためには、「ある+ない」「する+しない」という両面で考えていくことが有効です。例えば、「車を持っている(ある)」と考えたときには同時に、「では車を持っていなければどうなるか?」ということも考えておきます。
結果的に、何かが「ある」、何かを「する」ことがいくつも前提条件として含まれる場合には、ご都合主義的なペルソナになっていることを疑ったほうがよいでしょう。
例えば、「化粧品に興味があり、所得も地位もあり、一人でも積極的に化粧品店に行ったり、情報を収集したりする男性」ですと、存在しないわけではないでしょうが対象が限られてきますね。
少数のコアな層を狙っているなら良いのですが、想定するマーケットの規模にフィットしない場合は、上記のどれか、またはすべてを「ない」「しない」にして考えてみると良いでしょう。
今、マーケティングはマクロからミクロへ、マスから個へ、論理から感情へとシフトしているといわれます。
価値観やライフスタイルの多様化と、豊富すぎる情報に日々接するカスタマーの意思決定にリーチするためには、「心の機微」のようなものにフォーカスしたブランディングやプロモーションが重要になってきます。
ペルソナを設定し、それを活用することはそのような社会や人々の変化にマッチしていますし、何より、感情やストーリーを大切にして仕事をしていくことは、あなた自身やあなたのチームの仕事に対する満足度や充実感に対してもプラスの効果がありそうです。
ぜひ、ペルソナづくりやそれを活用した業務展開をきっかけに、「人間」に対する理解を深めていってください。それができれば、今後どのような変化があったとしても、必要とされる人材になっていくことができるかもしれません。
ペルソナづくりは、重要かつ複雑です。
そのため、ペルソナづくりをサポートする様々なシートやテンプレートが考案され、活用されています。
こちらでは、その中でも代表的で効果的なものをご紹介いたしますので、ぜひ必要に応じて使ってみてください。