効果抜群!?心理学の賢い使い方

広告と心理学

広告と心理学、今では切っても切り離せないものとなりました。 テレビでも、WEBでも、映像でも、文章でも、様々な心理学の知見が活用され、多くの価値を生み出しています。そんな心理学の「パワー」を活用し、コンテンツの質を高める方法を具体的に紹介するのが、この記事の目的です。

少し話はそれますが、対面営業のテクニックのひとつとして、心理学の「ペーシング」が紹介されることがよくあります。 これは、もともとカウンセリングなどで使われてきたもので、自分と相手が同じだと、その相手に親近感や信頼感を感じやすいというテクニックです。

この手法が紹介されると、話し方や話すペース、表情、動作、果ては飲食店で注文するものまで、とにかく一緒にする、それがペーシングという教え方が流行したことがありました。その結果何が起こったでしょう?

人間は、他人にコントロールされることを嫌います。ペーシングで相手の気持ちをつかもうとするのも、妻かれる側からすれば、心理的なコントロールのひとつです。あまりに見え透いた「ペーシング的な振る舞い」が多くなった結果、逆にそれは、下心のある行動として認知されてしまうようになりました。

 このように心理学的手法は、手法の表面だけをなぞってもなかなか効果が出にくいこともあります。ですので、できるだけ専門的にならないよう注意しながら、可能な限り、それぞれの理論や手法のバックボーンも説明するようにしています。

心理学的な手法や知識は、使い方次第ではWEBライティングだけでなく、人間関係や自分自身のセルフコントロールにも良い影響を及ぼします。この記事で紹介できるのは「入口」に過ぎないかもしれませんが、ぜひ可能な範囲で活用し、パフォーマンスを高めてください。

なぜ心理学は効果的なのか?

 他の人の心を気がつかれずに支配することができる。ちょっとしたしぐさや発言だけで、その人の本心やキャラクターがわかってしまう。そんな、魔法や超能力のような「心理学」が紹介されることはあります。

実際に、テレビやセミナーなどで、心理学を使ったテクニックを目の当たりにし、その力に驚嘆した方もいらっしゃるかもしれません。ですが、実際には心理学はより限られた範囲でしか力を発揮することはできません。現に、過去から現在の「本物の」心理学者たちは、自分たちの研究の限界に対して非常にドライに考えています。むしろ、心理学をあまり知らないか、少しかじった程度の人たちのほうが、心理学の力を過大に評価してしまう傾向があるでしょう(これは、心理学に限ったことではありませんが…)。

ですので、心理学の知見を活用する際には、その限界もわかったうえで使う必要があります。

こう書くと、「なんだ、心理学なんて大したことはないじゃない」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、心理学は万能ではありません。ですが、そのテリトリーの中でなら十分に素晴らしい力を持っています。

心理学研究そのものはともかく、日常生活に転用できるような知見の多くは、普段私たちが目にしていたり、感じたりしている「これってなんだか正しそうだけど、よくはわからないな…」ということを研究で実証してきたものが多いです。例えば、「あんまり選ぶものが多すぎると頭がくらくらしちゃうんだよね」とか、「なんか自慢話ばっかりする人って信じられなくて…」というようなことを、理論と実験で裏付け、確かにそうらしいといえるところまで確かめたものが心理学的なテクニックといってよいでしょう。

その結果、自分だけの経験がみんなと共有できるものとなり、共通の理解の土台が生まれます。その共通の理解の土台に立って考えたり、行動したりすれば、「僕がそう思うんだ!」というよりはるかに説得力が生まれるでしょうし、行動に一貫性も持たせやすくなります。また、何かを試した後に振り替える際にも、効率的、効果的に振り返ることができるでしょう。

この、「説得力」「一貫性」「振り返りの容易さ」があることで、PDCAサイクルを回しやすくなりますし、多くの人に理解してもらいやすくなります。だからこそ、心理学的な知見を自分自身のアクションに加えていくことには価値があるのです。

欲求について理解しよう!

心理学は人間の心全般について扱ったものですので、非常に広い範囲にその領域が広がっています。

そのすべてを知ることにそれほど意味はありませんので、ここでは「欲求」についてまずご紹介していきます。なぜなら、購買行動は欲求なしでは語ることができず、いかに欲求を生み出すかが勝負のカギだからです。

ここでは、心理学の世界で欲求がどう考えられ、とらえられてきたのか、代表的な科学者であるマズローとマレーの欲求研究を紹介しながら解き明かしていきます。

マズローの欲求5段階説

マズローの欲求5段階(6段階)説といえば、ビジネスの世界でも非常に有名ですので、耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 アメリカ出身の心理学者アブラハム=マズローは、自己実現や創造性など、人間の高度な精神活動について研究を進めた人物です。そして、彼が提唱したのが、人間の欲求は

  1. 生理的欲求:生存するための欲求
  2. 安全欲求 :不安のない安心、安全な生活への欲求
  3. 社会的欲求:愛情と所属の欲求ともいわれ、集団の中で受け入れられたいという欲求
  4.         
  5. 承認欲求 :他者から認められたい、尊敬されたいという欲求
  6. 自己実現欲求:価値観や人生観に従って「こうなりたい」「こうありたい」と願う欲求
 の5段階に分かれるとした欲求5段階説です。

最も基本的な生理的欲求から、それが満たされると次の欲求が順番に現れるとしたもので、そのレベルアップ的な考え方と、最後が「自己実現」という、自発的にやる気を出してバリバリ仕事しそうなイメージなどもあって、ビジネスの世界に深く浸透しました。皆さんも、「自己実現を目指して仕事をする」「自己実現がやりがいにつながる」というようなメッセージを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。

マズローの欲求5段階説自体は、そもそも人間の欲求ってそんなに順番に出てくるんだっけ? とか、自己実現の考え方ってマズロー先生だけのヤツじゃね? とか、ピラミッド型に人間が成長していくみたいな価値観ってなんか違うよね、とか様々な批判を受け、心理学の世界ではあまり人気がないのですが、欲求をわかりやすく5つにまとめてくれているので入口としては非常に分かりやすいです。

さらにまとめるとすると、

  • とにかく生き残りたい→生理的欲求、安全欲求
  • 群れの中でマウンティングしたい→社会的欲求、承認欲求
  • バナナ
 とすると、かなり良く日常の行動や心理を説明できるようになります。

自己実現というのは、「無我」とか「悟り」とか、ちょっと人間を超越した部分もあり、また自己実現者が果たして広告に食いついてくれるのか、という問題もあるため、私たちとしては、とりあえず人間は「苦痛なく安心していきたい」「群れの中でいい感じのポジションをとって利益を得たい」という二つの大きな欲求に突き動かされている、ぐらいに考えておくと、いろいろなことがクリアに分かるようになると思います。

マレーの欲求リスト

心理学者ヘンリー=マレーの功績は、欲求を40種類に分類し、リスト化したことです。このことによって、欲求がより具体的に把握できるようになり、そこから心理テストなどが生まれました。また、ビジネスの面でも、大まかにつかむにはいいもののやや漠然としているマズローの欲求5段階に比べ、よりアクションにつなげやすくなったといえます。

マレーは、欲求を生命維持的な活動に根差す「臓器発生的欲求(第一次的欲求)」と、心理的な活動に根差す「心理発生的欲求(第二次的欲求)」に二分し、第一次的欲求は13、第二次的欲求は37に分けました。ここから言えることは、生命にかかわるような欲求はほとんどの人に共通するのに対し、心理的な欲求はより個別的で複雑、ということでしょう。

さすがに、40種類すべてをここで挙げることは避けて、いくつか例を挙げると

【臓器発生的欲求(第一次的欲求)】
食物欲求:食べ物を求めたい
        
感性欲求:身体的な感覚を求め、楽しみたい
        
傷害回避欲求:痛みやけが、病気や死を避けたい
【心理発生的欲求)(第二次的欲求)】
獲得欲求:お金や財産、いろいろなものを手に入れたい
優越欲求:他人よりも優れていたい、社会的地位を向上させたい
顕示欲求:他人の注意をひきたい。楽しましたり、感動やショックを与えたい
中和欲求:失敗をリベンジしたい、弱さを克服して名誉を守りたい
同化欲求:他人と同一視して感情移入したい、マネしたり見習いたい、信じたい
などが挙げられます。

そして、これらの欲求は一つだけで表れることも、複合的に表れることもあります。また、人間は複雑な生き物であり、一見矛盾するような欲求を同時に感じていることもあります。

興味のある方は、マレーの欲求リストや、そこから補足されたリストをご覧になってみてください。自分自身や顧客の行動が、どのような欲求に根差しているかわかってくるはずです。

ドルーのLF8

最後に紹介するドルー・エリック・ホイットマンは、研究者ではなくコンサルタントです。ダイレクトマーケティングのコンサルタントであるドルーは、人間心理に基づいたアプローチにより、大きな成功を収めました。

そのドルーが提唱したのが、「Life-Force 8(生命の8つの躍動)」で

  1. 生き残り、人生を楽しみ、長生きしたい。
  2. 食べ物、飲み物を味わいたい。
  3. 恐怖、痛み、危険を免れたい。
  4. 性的に交わりたい。
  5. 快適に暮らしたい。
  6. 他人に勝り、世の中に後れを取りたくない。
  7. 愛する人を気遣い、守りたい。
  8. 社会的に認められたい。
という8つです。マレーの欲求リストの中のポイントをまとめたもので、実際に現場で働くコンサルタントが作ったものですので、より実戦的といえるでしょう。

また、ドルーもマレーと同じく、欲求には一次的なもの(LF8)と二次的なものがあると考え、二次的な欲求を9つ挙げています。

  1. 情報が欲しい。
  2. 好奇心を満たしたい。
  3. 身体や環境を清潔にしたい。
  4. 能率よくありたい。
  5. 便利であってほしい。
  6. 信頼性、質の良さが欲しい。
  7. 美しさと流行を表現したい。
  8. 節約し、利益を上げたい。
  9. 掘り出し物を見つけたい。

この9つは、最初の8つに比べるとそれほど大きな欲求ではありませんが、私たちが感じる欲求であるとされます。

マズロー、マレー、ドルーを最初に紹介したのは、今後紹介する様々なテクニックが、「なぜ」「どのように」機能するのかがわかりやすくなるからです。「ああ、この商品の特性から、この欲求を喚起したいからこのようなコンテンツを作ってるんだ」というところまで推測できれば、応用していくことができるのです。

人間心理に基づいたアピール手法

 ここからは具体的に、前の見出しで挙げたような欲求を踏まえ、どのような心理学に基づいたテクニックがあるかを紹介していきましょう。

信頼×感情×論理=最強の説得

プレゼンテーションの世界では、大切なものを「何を言うか(What)」「どのように言うか(How)」「誰が言うか(Who)」と順にあげ、重要度もこの順(What<How<Who)だとしています。

 この考え方は、アリストテレスの説得術で挙げられている説得のための三要素、「信頼(エートス)」「情熱(パトス)」「論理(ロゴス)」の3つに基づいていると思われます。WEBライティングでも同じように、ユーザーを説得するためには、この3つを意識していくと良いでしょう。つまり、信頼を土台として、感情で訴えかけるか、論理で訴えかけるかをシーンやターゲットによって選んでいくというやり方です。

では、信頼はどのように築くのか、感情と論理に訴えかけるとはどういうことなのかを詳しく見ていきましょう。

信頼を生み出す心理

 信頼に関する研究は、主にカウンセリングに関わる領域で盛んに行われてきました。そして、その基礎となるのは、著名な心理学者であり、患者との信頼関係をもとにしたアプローチを提唱した、カール=ロジャーズの信頼関係を構築するための3つの要素、

  • 共感的理解
  • 肯定的態度
  • 一貫性
でしょう。

「共感的理解」とは、相手の立場や感情、考え方に共感を示すことで、WEBライティングの世界では、ユーザーが抱えそうな悩みや課題に対し、ライティングする側が「それ、わかります」と伝えることです。例えば、「じめじめした季節、洗濯物が乾かないのは本当に嫌ですよね」のように、困りごとや課題と、そこから生まれるであろう感情に触れ、共感するようなコンテンツですね。

「肯定的理解」とは、相手のことを善悪で判断することなく、また否定的にならずに理解しようとすることです。例えば、育児と仕事が忙しく部屋が片付けられないユーザーがいるとします。そんなユーザーに対し、「どんなに忙しくても清潔を保つのが親の務めですよね」と迫るのではなく、「忙しい中でも、できれば清潔にしたい、片づけたいと思いますよね。でも、ぐったり疲れてしまっているとどうしても気力が出ないことがある。それは、ほとんどの人に共通するのではないでしょうか」と、理解をしたうえで肯定的にとらえます。

 最後に「一貫性」とは、コンテンツの提供側が誠実で、正直であるか、隠し事をしたり、嘘をついていないか、ということになります。これは、自社のコンテンツの弱点や課題をあえて挙げ、それに取り組む姿勢を見せたり、失敗や自分自身の悩みなどを挙げていく、などのアプローチ法があります。

そして、ロジャースの3つの要素に現代のWEB環境を踏まえ、一つ条件を付け加えるとすれば、それは「権威」でしょう。

WEBの世界には情報があふれ、どれを信頼していいのか非常に分かりにくくなっています。そのような際に、ユーザーが「この人や会社、機関の調査や知見であれば信頼できる」と考えるオーソリティー(権威者)の力を借りることは大切なことです。もちろん、あなたや、あなたの会社自身がオーソリティーとなることもできますが、ユーザーにそう感じてもらうためには、確かな専門性を示すことが必要になります。

感情が95%?

皆さんの普段の生活で、いや、人生で、感情(欲求)が全く影響しない決断はどれぐらいありますか?

あるセミナー講師の方にお聞きしたのですが、企業研修などでこの問いを発すると、職種や職位によりますが、大体50~70%ぐらいは感情が影響しない決断だ、と答える方が多いそうです。皆さんはいかがですか?

ところが、心理学の研究では、逆に人間の決断のほとんどは感情によって強い影響を受けています。その割合は研究によって異なりますが、実に90~100%が感情によって影響を受けている、といわれています。

そう言われてみれば、就職でも、結婚でも、普段の家庭や仕事の上での決断でも、「担当者がいい人だったから」「雰囲気がよかったから」「ビビビッときて」という要素が影響を与えていることは多くありませんか? また逆に、「言ってることはわかるんだけど、なんかお前に言われるといやなんだよなー」ということもあるかもしれません(だからこそ、先ほど挙げた信頼が大切になるのですが)。

このように、私たちは決断のかなりの部分を感情(欲求)に左右されています。ですので、ここまで紹介してきたような様々な欲求(感情のほとんどは欲求不満とその充足で生まれますので)のうち、どれにフォーカスして喚起するかを決め、そこにアプローチしていきます。その際には、マレーの欲求リストなどが役に立つでしょう。

基本的に、強い感情は具体的なイメージから生まれますので、感情を喚起する場合は具体的な表現を心掛けます。例えば保険商品を売りたい場合に、「いつか将来、重い病気になるかもしれません」というよりも「想像してみてください。46歳、働き盛りの夏。毎年のことだと思って健康診断にいって『要精密検査』の診断を下され、精密検査の結果が陽性だとしたら?」というように。

あ、そういうCM見たことある、と思った方は素晴らしいです。テレビのCMなどは特に、どれか特定の感情を強く書き立てるように作られているのです。また、通販番組や、映画なども感情をどのように喚起するかの参考になります。

もし興味があったら、マレーの欲求リストなどを手元に置き、制作側がどこで、どのように、どんな感情を喚起しようとしているかを考えてみると良いでしょう。

ロジカルってどういうこと?

世の中には、感情だけでは動かない人… 正確に言うと、感情だけで動くことを嫌がる人たちがいます。そのような人たちには、感情に訴えかけると同時に、理性に訴えかけることが大切です。

そして、理性に訴えかけるための話の持って生き方として使いやすいのが論理的な説明です。論理的な説明については、本当に多種多様な方法が紹介されていますので、ここではシンプルに2種類だけ紹介します。それは、「ゴールから逆算する」「スタートからゴールに向かう」の2つです。

「画期的な商品が生まれました。この商品は、これまで解決できなかったことの96%を解決し、すでに使ったユーザーの98%に高く評価されています。では、このような革新的な商品がなぜ生まれたのでしょう? それは、Aという技術の開発、Bという理論の応用、そして、Cという弊社独自のノウハウがあったためです」のような説明の仕方が「ゴールから逆算する」方法です。最初に「画期的な商品」を紹介し、なぜそれが生まれたのか? という理由として「A+B+C」を挙げています。

「私たちの会社には、ユーザーからの不安な声がこれこれこんな風に寄せられていました。この解決のために、私たちはAという技術を開発し、Bという論理を応用し、Cという弊社独自のノウハウを加えました。そして生まれたのが、画期的な商品です。この商品は、これまで…」のような説明の仕方が「スタートからゴールに向かう」です。最初に「問題な状態」を設定し、その解決のためのステップを踏みながらゴールに向かいます。

この2つの方法に優劣はありません。あくまで、アピールしたい商品やサービスの内容と、ターゲットとなるユーザーによって決めてください。ですが、2つに共通して必ず押さえなければいけないポイントはあります。それは、「3=1+1+1か?」ということと、「1+1+1=3か?」ということです。

今回の例でいえば、画期的な商品を生み出すために、AとBとCの3つが挙げられていました。これらが、本当に画期的な商品を生み出すのにふさわしいものなのか? その3つで画期的な商品を生み出しうるのかを確認しておくことが大切です。

例えば、「火星人襲来! 未曽有の危機から地球を救ったのは、3人の小学生、100円のお小遣い、そして勇気だった」という文は、だれがどう考えても「1000000=1+1+1」の構造になっています。興味をひく、という観点からでしたら「残りの999997はどこにあるんだ!?」と疑問から興味が引けるかもしれませんので有効ですが、論理的に説明して信頼感を生む、という点では疑問が残ります。

この、A+B+Cの信頼性を高めるためには、根拠ある具体的な事実を、数字や具体的な名称などを正確に使いながら、結論を十分に見出しうるまで書いていく必要があります。ですので、論理的な説明をするためのポイントは、書き方、というよりは、書くための準備(証拠集め)のほうにコストがかかると考えておいてください。

「比べる」ことが社会心理学の原点

ここまで、「信頼を生む」「感情に訴えかける」「論理的に説明する」などを紹介してきましたが、これらの本質は、比較して特徴や関係性を見出すこと、ということができそうです。

先ほど、感情を喚起するためには具体的にイメージできるように表現すると良い、とご説明しましたが、これはユーザーに、ことの重大さを実感してもらうためでもあります。

そして、私たちはこの「重大さ」を、比較することでしか見出せません。その比較が、同世代の平均なのか、過去の自分なのか、有名人なのか…何を、どう比較させるのかを考えたうえでコンテンツを作っていくと、欲求が生み出しやすくなります。

たとえば、問題提起型のコンテンツでしたら、「病院のベットに横たわり、涙を流しながら家族の写真を見つめている男性」を提示することで、今の自分自身(健康を軽視し、万が一の事態に備えていない)との比較によって感情や欲求を喚起することができるでしょうし、理想提示型のコンテンツでしたら、「スマートで活動的な美男美女が、颯爽とオフィス街を歩く姿」を提示することで、今の自分自身(運動不足で最近体が重く、気分もなんだかのってこない)との比較を生み出すことができるでしょう。

今の2つの例は自分自身との比較でしたが、もちろん同業他社や類似の製品、今自分が使っている製品との比較も(無意識にでも)ユーザーは行っています。 ですので、制作側も、可能なら同業他社や類似の製品がどのようなコンテンツでアピールされているかを確認し、それと比較して差が生まれるようにしておくことが大切です。

また、同じ提供側のサイトやカタログの中で比較して商品を選択することもあるでしょう。このような場合は、比較対象が多すぎないほうがいい、という有名な実験があります。

ある商店で、20種類の商品を並べた場合と、3種類の商品を並べた場合にどちらのほうがその店で購買する率が高かったか、という実験で、結論を言うと3種類の商品を並べた場合のほうが圧倒的に高かったそうです。

あまり選択肢が多すぎると、「選択疲れ」をしてしまい、そもそも買う気がなくなってしまう心理が働くため、自社のカタログやECサイト内で商品を買ってほしい場合には、3つ程度がユーザーの選択肢になるように誘導することが大切です。

 また、5000円の商品、3000円の商品、1000円の商品を並べると3000円の商品が選ばれやすくなり、3000円の商品、1000円の商品、500円の商品を並べると1000円の商品が選ばれやすくなるという、最大も最小も選ばない心理が私たちにはあるようですので、本当におすすめの商品がある場合は、それより高いもの、安いものと比較してもよいでしょう。

このように、「比較する」ということが心理学、特に、社会の中での人々の心理を研究した社会心理学では重視されています。そして、その比較の結果発見されたことが今、私たちが使っている心理学を応用した手法として紹介されています。

ですので、これから先、様々な心理学的手法に接したときは、「この手法はどのような欲求や感情を生み出そうとしているんだろう? それは、何と何を比較させようとしているんだろう?」という問いを発することで、その手法の本質をつかみやすくなり、応用しやすくなるでしょう。

まとめ

心理学的な手法について、そもそも心理学とは? というところから、欲求と、それを生み出すための考え方に着目して紹介してきました。

大切なことは、冒頭に紹介したように、心理学は決して万能の、魔法のツールではない、という認識を持ったうえで、ではどのように応用できるのだろう? 他の制作者は、どのように応用しているのだろう? と考えていくことではないか、と思います。

「心理学」を謳った手法の紹介の中には、先ほどの例でいえば「100=1+1+1」のようなものや、「100=???」のようなものもあります。そのような眉唾のテクニックに騙されることなく、また誤解して使ってしまうことがないよう、基礎的な考え方を理解した上で心理学の成果を活用して下さい。

最後に、心理学と並び、または入れ替わって最近非常に流行しているのが「脳科学」です。比較的新しい研究分野であり、脳の働きを見ることでこれまでにはわからなかったことも検討できることから非常に注目されていますし、様々な場所で活用されています。

しかし、脳科学においては心理学以上にその扱いに注意が必要です。なぜなら、「どんな刺激があると、どんな働きがあって、どんな変化が脳に現れるか」ということを証明しきった脳科学の研究はあまりなく、数年前に世の中で話題になった研究成果が現在否定されていることも少なくありません。例えば、「この商品を手に取った時、ユーザーの脳のAという部分が活性化した」という研究成果があるとしても、現状ではほとんどの場合「そういうこともあるよね」といえる程度のことが多いのが現実です。

心理学も、脳科学も(そしてそのほかの科学も)、これまで形にできなかった人の心や脳の働きを形にしようとしてきた非常に素晴らしい学問分野です。そして、その中では未知の領域と日々格闘している研究者たちがおり、試行錯誤しながら新しい発見をしようとしています。試行錯誤しながらですので、力の限り誠実に取り組んでも、ミスや誤解、不十分な点があることもあります。そして、研究をしている方のほとんどはそれを自覚して謙虚に研究しています。

問題があるとすれば、それをセンセーショナルに解釈してセールスにつなげようとする制作側にあるのかもしれませんが、それも意図的にミスリードしているのでなければ、悪いことではありません。

大切なことは、このような心理学を取り巻く全体像をなんとなくイメージしたうえでアプローチをすることでしょう。